当サイトは、2020年末に凍結されたアーカイブサイトです。
最新情報は、新コーポレートサイト enbio-eng.com を
ご覧ください。
従来、汚染土壌の原位置浄化の方法として、バックホウによる混合攪拌工法や鉛直型単軸攪拌翼による混合攪拌工法等が利用されてきた。しかし、これらの方法では攪拌状態にむらがあったり、工期が長くなってしまうことがあった。そこで本報告では、VOCsで汚染されたサイトに対して従来セメントなどの改良材を攪拌混合することによる地盤改良工事に用いられてきたスラリー噴射方式浅層・中層混合処理工法を使用し、攪拌翼先端からフェントン試薬を吐出させ、汚染土壌とフェントン試薬を混合攪拌することによりVOCsを分解するパワーブレンダー工法を適用した事例を報告する。
2.1 MIP の測定地点とサイトの概況
表-1 土壌汚染の深度分布状況
地点名 | 深度(m) | TCE 溶出量(mg/L) |
cis-1,2-DCE 溶出量(mg/L) |
---|---|---|---|
No.1 | 2.0 | 0.054 | 0.009 |
3.0 | 0.091 | 0.018 | |
4.0 | 0.029 | 0.022 | |
5.0 | 0.001 | 0.064 | |
5.5 | <0.003 | 0.055 | |
No.2 | 2.5 | 0.040 | 0.013 |
3.0 | 0.049 | 0.010 | |
4.0 | 0.071 | 0.012 | |
5.0 | 0.14 | 0.023 | |
5.5 | 0.040 | 0.027 | |
6.0 | 0.08 | 0.056 |
MIP による測定を実施したサイトは、ガソリンスタンドの跡地で、ベンゼンによる地下水・土壌汚染が認められていた。測定する平面範囲は、汚染のおそれがあると考えられる、一辺 6.0 m の正方形により囲まれる範囲とし、合計 9つ(M1~M9)の測定地点を設定した。また、深度範囲は地表から5.0 m までとした。
揮発性有機化合物の測定にはPID 検出器(10.6 eV)を使用した。図1 にMIPによる調査地点と、MIP の測定値と公定法による分析値を比較するための土壌試料採取地点(B1)を示す。
2.2 浄化薬剤
2.2.1 使用薬剤の設定
本サイトでのVOCs汚染の浄化工法はフェントン反応剤による化学酸化工法を用いた。フェントン反応剤は過酸化水素水に、硫酸第一鉄、pH調整剤(クエン酸ナトリウム)を混合したキレートフェントン溶液とした。1)
2.2.2 薬剤量の設定
使用薬剤量および水溶液濃度を表-2に示す。
表-2 使用薬剤量および水溶液濃度
薬剤量(kg) | 水溶液濃度(%) | |
過酸化水素水(35%濃度) | 100,000 | 5.0 |
硫酸第一鉄 | 2,000 | 10.0 |
クエン酸Na | 2,000 | 10.0 |
2.3 浄化方法
本サイトでは浄化工法としてパワーブレンダーを用いたフェントン反応剤の混合攪拌工法を行った。
パワーブレンダー(写真-1)とはベースマシーンにトレンチャー(写真-2)を装着した機械で、攪拌翼の回転速度、薬剤吐出量、トレンチャー角度の管理をすることが出来る。
2.3 浄化方法
バックホウにより、浄化対象深度までの清浄土を掘削し仮置きする。
トレンチャーを地面に垂直に立て、浄化対象深度上部からフェントン反応剤を吐出し攪拌翼を回転させながら浄化対象深度下部に至るまでトレンチャーを掘進させる。
トレンチャーを浄化対象深度下部まで掘進し、フェントン反応剤の吐出、攪拌を続けながら水平方向に動かし、浄化対象エリアを浄化する。(図-1施工図 参照)
攪拌作業が終わった箇所の土壌を採取し現地簡易分析を行い浄化完了の確認をする。汚染が残っていた場合は攪拌作業を繰り返し行う。
浄化完了後のエリアにおいて同一機械を用いて、強度復旧を目的としたセメントによる地盤改良を行う。
ボーリングにより対象深度の土壌を採取して公定法で分析を行い、浄化完了を確認する。
3.1 パワーブレンダーによる混合攪拌工法の結果
本浄化工法によるVOCs汚染の浄化効果を、ボーリング調査により確認した結果(表-1に示す2地点)を表-3に示す。2地点の工事後の分析結果を示す。両地点ともに全深度で基準適合を確認しており、深度によるむらも認められなかった。
地点名 | 深度(m) | TCE 溶出量(mg/L) |
cis-1,2-DCE 溶出量(mg/L) |
---|---|---|---|
No.1 | 2.0 | <0.003 | <0.004 |
3.0 | <0.003 | <0.004 | |
4.0 | <0.003 | <0.004 | |
5.0 | <0.003 | <0.004 | |
5.5 | <0.003 | <0.004 | |
No.2 | 2.5 | <0.003 | <0.004 |
3.0 | <0.003 | <0.004 | |
4.0 | <0.003 | <0.004 | |
5.0 | <0.003 | <0.004 | |
5.5 | <0.003 | <0.004 | |
6.0 | <0.003 | <0.004 |
3.2 まとめ
フェントン反応剤とパワーブレンダーによる混合攪拌工法によって、粘性土を主体としたVOCs汚染土壌に対して均質な浄化効果を得た。このことから、本工法はVOCs汚染土壌の原位置浄化工法の一つとして有効であることが確認できた。
・バックホウによる混合攪拌工法との比較
本工法は、バックホウによる薬剤散布+混合攪拌工法と比べ混合状態にむらが少なく、浄化深度や薬剤量の管理も容易である。欠点としては、薬剤の送液プラントの設置と機械組立のために広い敷地の確保が必要となることが挙げられる。
・鉛直型単軸攪拌翼による混合攪拌工法との比較
本工法は、鉛直型単軸攪拌翼による混合攪拌工法に比べ混合状態のむらは同程度であるが、トレンチャーを対策深度に入れたままでエリアの浄化が出来るため、作業効率が良い。欠点としてはパワーブレンダーの浄化可能深度に限界があることが挙げられる。
土壌汚染の浄化工法は汚染状況や敷地面積等を勘案し、より適した工法を選択していく必要があり、パワーブレンダーによる混合攪拌工法は汚染土壌の原位置浄化工法の有効な一つの選択肢となりうる。
[参考文献]
大澤武彦、他:クエン酸Na、鉄キレートを用いたフェントン法に関する実験的検討,土壌環境センター技術ニュース,No.17,2010.5