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化学酸化剤を用いて有機化合物汚染土壌の原位置浄化またはオンサイト浄化が国内外で広く採用されてきた。よく利用されている化学酸化剤としては、主に鉄触媒に触媒される過酸化水素CHP(Catalyzed Hydrogen Peroxide)、活性化させた過硫酸ナトリウムSPS(Sodium Persulfate)、過マンガン酸カリウム、オゾンが挙げられる。その中、CHP のフェントン反応剤を利用した原位置化学酸化技術は、薬剤が比較的安価であるため広く応用されている。比較的単一の有機汚染物質、たとえばベンゼンやVOCs 等に対しては、フェントン反応の分解特性が多く研究され、実汚染サイトにおいて実証されてきた。一方高濃度の複合有機化合物に対しては、その浄化効果は、汚染物質の種類、濃度及び物理化学性質に左右される。本報告では、中国江蘇省のある化学工場跡地の汚染サイトにおいて採取された地下水を対象に、フェントンの複合有機化合物汚染に対する浄化効果を検討したため、その結果を報告する。
汚染サイトは、約50 年歴史のある石油化学工場の跡地で、主にベンゼン系原料の合成生産を行ってきた。現地調査では、ベンゼン系物質を約20 種類検出され、主な汚染物質はベンゼン、クロロベンゼン、ニトロベンゼン、2,4-ニトロクロロベンゼン、1,4-ジクロロベンゼン、1,2-ジクロロベンゼン等である。
フェントン酸化剤の分解効果を検証するため、汚染サイトの異なる地点から地下水採取して用いて室内試験を行った。各地点の地下水汚染状況は表‐1 に示す。地下水試料をガラス製瓶に入れて、H2O2濃度0.5%になるようにフェントン薬剤を添加して、シールにより密閉し、静置した。6 時間と24 時間後に、ガスクロマトグラフ/質量分析法(GC-MS 法)により、地下水中の汚染物質の濃度を測定した。試験条件を表-2 に示す。
番号 | 初期濃度(mg/L) | ||
クロロベンゼン | ニトロベンゼン | 2,4-ニトロクロロベンゼン | |
A5-w1 | 3.32 | 0.85 | 358.0 |
B1-w1 | 54.0 | 1.4 | 19.4 |
B3-w1 | 142.0 | 37.1 | 246.0 |
C1-w1 | 157.0 | 156.0 | 170.0 |
D2-w1 | 104.0 | 474.0 | 133.0 |
試験系 | 反応時間 | フェントン試薬 | 薬剤添加量 |
対照 | 6h, 24h | なし | 地下水:200 mL 純水 |
反応 | 6h, 24h | H2O2、硫酸第一鉄、 クエン酸Na |
地下水:200 mL H2O2:0.5% |
フェントン反応では、酸化のpH 域で過酸化水素に鉄(II)化合物が触媒的に反応して複雑な連鎖反応が起こり、酸化力の強いヒドロキシルラジカル(・OH)を発生させる方法で、反応式は式(1)のようになる。このOHラジカルは酸化作用があることが重要なポイントとなる2),3)。ここで生成した・OH ラジカルは強力な酸化剤で有機化合物の化学結合を切断して無差別に酸化する。・OH ラジカルはフッ素に次ぎ2 番目に高い酸化能力を持っている。過酸化水素と式(1)で生成したFe3+が反応して過ヒドロキシルラジカル(・OOH)を生成する。反応式は式(2) のようになる。これこそがフェントン反応剤による酸化分解の主役で、ヒドロキシルラジカルは
ほとんどの炭化水素と反応して、最終生成物として炭酸ガスと水を生成する。
フェントン反応による各有機化合物質の分解反応における残留濃度の経時変化を図‐1~図-3 に示す。フェントン薬剤添加後、時間とともにクロロベンゼン、ニトロベンゼン、2,4-ニトロクロロベンゼンの残留濃度が低くなり、分解が進行していると確認された。しかし、物質によって分解効果が大きく異なる。クロロベンゼンは、分解はほとんど最初の6 時間内において進行し、その後の分解速度が著しく低下した。これに対して、ニトロベンゼン、2,4-ニトロクロロベンゼンは、6 時間後でも分解反応が緩慢に進んでいると確認された。
各汚染物質の除去率(対照系の影響を除く)は図-4 に示す。多少の誤差があったものの、反応の分解効果が確認された。したがって、今回の実験結果では、高濃度の複合有機汚染物質に対して、フェントンの酸化分解作用が認められた。
本報告では、フェントン反応を利用して複合汚染物質の分解効果を確認した。汚染物質の性質、濃度によって分解速度と除去率が異なるが、実験結果から、高濃度の複合有機汚染物質に対しても、フェントン反応による浄化効果が期待できる。今は薬剤濃度、添加回数などを検討して、効率的浄化効果を目指した設計方法を確立するための研究を進めている。また、フェントン注入撹拌工法による汚染土壌に対する浄化効果についても現地試験を実施しており、その試験結果及びフェントン注入工法の適用性についても追って報告したい。
一般社団法人 土壌環境センター(2012):土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドライン(改訂第2 版).
田熊保彦、加藤茂、小島紀徳(2008):フェントン反応による揮発性有機化合物の分解速度,東京都立産業技術研究センター研究報告,第3 号,pp.86~87.
伊田健司、山口明男、田中功、松下隆一、宮沢裕子(1995):メッキ工場廃水のフェントン酸化処理,埼玉県公害センター研究報告, 22, pp.33~36.