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土壌汚染対策における原位置浄化の特性については、各工法のメリット・デメリットを含め実験・実証されており、各論においての評価は一定のものがある。しかしながら実サイトの施工条件は千差万別であり、その差異要因は地質、汚染状況のみならず本件の様に要措置区域に指定されると、施工方法の制約の他、時間・コスト等の条件がより厳しく付加される。
本サイトでは、VOCs汚染工場を瑕疵担保免責・現状有姿で買取後、要措置区域指定、浄化工事終了、売却、2年間モニタリング適合、区域指定解除に至るプロセスの中で、MIP絞込調査と原位置浄化を中心とした実現場の対策を、事例として紹介する。
2.1 地質と汚染状況
現地はクリーニング工場の跡地で有り、土壌でテトラクロロエチレン、地下水でテトラクロロエチレンとその分解生成物による汚染が確認された。
図1に現地の簡易的な土質柱状図を示す。表層からローム層、シルト層であり帯水層の底面はシルト層上に有り、汚染濃度は、GL-3m付近で最も高い値であった。
2.2 要措置区域指定
現地は土壌・地下水汚染が有り、更に近傍に飲用井戸の存在が認められた事から3区画、220㎡に対し、汚染の除去等として「原位置封じ込め又は遮水工封じ込め」の措置命令がくだされ、要措置区域に指定された。
2.3 浄化責任の承継
措置命令の受命者は汚染土地の売買により、買主である(株)エンバイオ・リアルエステート(旧(株)ビーエフマネジメント)となる。
尚、売買契約前の自主的調査により受命者は本件土地における土壌汚染の存在を認知していた。
3.1 施工計画
現場条件並びにテトラクロロエチレンの汚染特性を勘案し、以下の基本要件を決定した。
要措置指定区域の遮水
MIPを用いた絞込調査
土壌汚染については酸化剤による脱塩素化
地下水汚染についてはバイオレメディェーション促進剤を用いた生分解
3.2 施工手順
浄化手順と各工程の概要を以下に示す。
3.2.1 施工手順
シートパイル(深度6.0m)による遮水、粘性土までシートパイルを打設し遮水する。
打設はサイレントパイラ―で行い近隣にも配慮した。打設の状況を、図3、図4に示す。
3.2.2 MIP 絞込調査
サンプリング結果で最も汚染濃度が高かった地点を中心に、操業時のパーク機械設置場所から汚染の可能性を推察し調査を行う。
測定結果において、汚染範囲は平面的にはサンプリング調査で濃度の高かった地点に集中しており、深度においては、地表より粘性土上部までのGL-2.5m~-5.0mの間で環境基準を超過している可能性が高いと考えられる。
3.2.3 酸化剤撹拌混合
汚染土壌に対して酸化剤を散布し、バックホウにより撹拌・混合を行う。
高濃度区画については、事前にGL-6.0mまで鋼矢板による遮水を実施し、汚染物質と薬剤の拡散を防止する。なお、周辺の柱状図から鋼矢板をGL-6.0mまで打設した場合でも、準不透水層を貫通せず、鋼矢板の下端から準不透水層底部までの間隔は0.5m以上を確保している事を確認する。
尚、酸化剤は過硫酸ナトリウムを主剤として用いた。
3.2.4 バイオ薬剤注入
汚染地下水に対して、バイオレメディェーション薬剤の注入を実施した。
方法はバイオスティミュレーション剤(水素供与剤)の注入による原位置浄化とし、土着の菌を活性化させ、有害物質を無害化させた。
注入実施地点は100㎡当たり16箇所を均等に設置した。
注入状況を図10、図11に示す。
また、バイオ薬剤の注入期間中は、境界部監視井戸において地下水質等をモニタリングし、汚染物質と薬剤の境界外への影響を評価した。
4.1 土壌モニタリング結果
最高濃度地点の工事終了モニタリング結果を表1に示す。
最終的に全ての地点・深度で基準値適合が確認された。
4.2 地下水モニタリング結果
テトラクロロエチレンの地下水モニタリング結果を表2に示す。
その他分解生成物であるトリクロロエチレン、シス‐1,2‐ジクロロエチレン、1,1ジクロロエチレン、塩化ビニルモノマーについても全ての区画で基準値適合が確認された。
4.3 区画深度10mまでの追加調査
工事終了モニタリングの結果において、浄化対象区画での基準値適合を確認したのちに、既存調査最高濃度区画において深度10mまでの追加調査を実施した。
結果、全深度、全項目において基準に適合しており、対象地内のテトラクロロエチレン等による土壌汚染は難透水層以下には拡散していないことが確認された。
但し、基準値適合ではあるが、7mでテトラクロロエチレン0.0007mg/L、トリクロロエチレン0.002mg/L、シス-1,2-ジクロロエチレン0.013mg/L、深度8mでシス-1,2-ジクロロエチレン0.0006mg/Lが検出され、図6のMIP調査結果と同様の傾向を示した。
4.4 浄化措置終了
以上の結果より浄化措置を終了と判断し、措置完了確認モニタリングへと移行する。
4.5 観測井モニタリング結果
観測井のモニタリング結果を表3に示す。
以上の結果により、地下水汚染の無い状態が2年間継続していることを確認した。
4.6 プロセス
汚染土地買取から要措置区域解除までのプロセスを表4に示す。
区域指定がなされた現場において、原位置浄化が敬遠される最大要因は浄化工事終了後の「地下水の2年間モニタリング」が必要であることが挙げられる。
土壌汚染は、不動産流動化における「隠れたる瑕疵」に相当する事から、モニタリング期間中のリバウンドは、あってはならない事であり、当然再浄化とモニタリングのリスタートは売主責任となる。
本件においては、工事終了後、モニタリング期間中に売却を実施したことにより、より大きな売主責任を背負う事になるが、2年間のモニタリングが無事終了した要因として、TR試験に基づく適性工法の選択、MIPによる絞込調査、適性な施工品質管理があった事が挙げられる。
本現場の成功を基礎に、今後原位置浄化のコストメリットを最大限発揮する為、浄化技術と不動産流動化のワンストップサポートを一層推進することを目指すものである。
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