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日本では2003年土壌汚染対策法の施行により義務化された土壌汚染対策。中国でも法などの管理監督体系の整備と各種通達に基づいた土壌汚染対策が強化されつつある。
中華人民共和国環境保護部(以下 環境保護部)は2014年5月、「工場移転と跡地の汚染処理に関する指導意見」を公布した。この中で環境保護部は、「工場の土地使用権者等の関係責任者が土壌汚染修復(浄化)方法を立案し、環境調査や修復工事のコスト負担をすること。また、環境調査が行われておらず、修復工事の責任者が明らかになっていない場合には土地使用権の譲渡等を禁止する。修復を経ていない土壌汚染地では開発行為の実施を禁止する。」と示している。中国の土壌汚染対策法である「土壌汚染防治法」は現在制定準備中であるが、各種の通達やガイドラインに基づいた土壌汚染対策の行政指導は開始されており、江蘇省では工場移転時や再開発の前には調査・浄化が必要となっている。
本論では、通達やガイドライン等の制度の他に、実際の現場で発生している土壌汚染対策の技術課題、行政指導や手順を紹介する。
土壌汚染調査対策を、“どんな土地に対して”、“いつ又はどんな場面で”、“誰が費用負担して”、“どんな仕様や手順で実施するか”、“適切な土壌汚染対策を行っていない土地に対する制約はどうなるか”等については、 2004年以降に環境保護部等から公布された通達やそれに基づいて各省の環境保護庁等が発した通達や条例に示されている。また、調査や浄化の手順や仕様設定については2014年に環境保護部が公布し施行されたガイドラインに定められている。
環境保護部が公布した土壌汚染対策関連の主な通達及びガイドラインを以下に示す。
(1)主な通達とその内容(一部)
企業移転過程における環境汚染の防治に関する通知。(国家環境保護総局(2004)47号)
土壌汚染防治の強化に関する意見(環境保護部(2008)48号)
汚染場地土壌環境管理暫定弁法(意見募集中)公表(環境保護部2009年)
工場用地再開発利用環境安全に関する通知(環境保護部(2012)140号)
工場閉鎖、移転、跡地利用再開発における汚染防治に関する通知(環境保護部2014年5 月 14 日)
(2)主なガイドライン
HJ25.1-2014;環境サイト調査技術ガイドライン
HJ25.2-2014;環境サイトモニタリング技術ガイドライン
HJ25.3-2014;汚染サイトリスク評価技術ガイドライン
HJ25.4-2014;汚染サイト土壌修復技術ガイドライン
3.1 有機汚染土壌地下水汚染浄化サイト・技術課題
操業1947年~2010年、面積50万m2の石油化学工場跡地(写真—1)。主な浄化対象物質はニトロクロロベンゼン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン。浄化は中規模試験→本工事と進展した。浄化対象土量は中規模試験2,000m3、本工事25.8万m3で、最大浄化深度12mである。大規模都市再開発区域の中の一工場跡地で土壌汚染対策が必要となった。地方政府土地管理部門及び傘下の不動産開発会社が調査浄化費用を負担し、当該工場の費用負担は無い。
当該事例では化学酸化(フェントン反応剤)+深層混合双方向攪拌機(写真−2,3)を用いた原位置浄化(写真−2)及びオンサイト浄化を適用し、以下の技術課題を解決して、中規模試験及び本工事の一部を施工した。
高い濃度、難分解性の物質(日本での薬剤組成では分解効果が不十分)浄化対象物質の濃度 地下水中のニトロベンゼン 初期濃度:433,900μg/L、浄化目標46,000μg/L
深い深度、砂と粘土の互層(均質な薬剤と土壌の混合や薬剤の注入が難しい)
フェントン反応剤の分解効果を検証するため、当該サイトの複数地点から地下水採取して用いて室内試験を行った1)。地下水試料をガラス製瓶に入れて、H2O2濃度0.5%になるようにフェントン薬剤を添加して、シールにより密閉し、静置した。6時間と24時間後に、ガスクロマトグラフ/質量分析法(GC-MS法)により、地下水中の汚染物質の濃度を測定した。
ニトロベンゼンは、6時間後でも分解反応が緩慢に進んでいると確認されたが(図−1)、初期濃度が高い場合では浄化目標達成のためには複数回の施工又はH2O2濃度を高くする必要があると判断された。また施工では薬剤と土壌の効果的な混合を行うことができる深層混合双方向攪拌機を用いた。
3.2 重金属土壌汚染浄化サイト・特有の浄化完了確認プロセス“審査会”
操業1990年~2012年の電力機材製造工場跡地。面積6万m2。浄化対象は亜鉛及びpH(強酸性)、浄化対象土量10,909m3。工業園区として再開発を行う区域の中の一工場跡地で土壌汚染対策が必要となった。当該地及び周辺はマンションが建設される。 浄化費用は民間不動産開発会社が負担した。同会社はマンションを建てその売却代金で浄化費用及び土地使用権代金をまかなう。当該工場の費用負担はない。
当該事例ではセメント系不溶化剤を用いて重金属の不溶化及びpH対策を実施した。調査から浄化完了まで弊社が実施して、中国特有の品質管理プロセスである“第三者機関による浄化完了確認試料採取”や“(調査報告や浄化完了等を審査する)審査会”による審査承認手続きを経て浄化が完了した。円滑に土壌汚染対策を進めるためには、審査会を構成する環境部門や専門家委員とのコミュニケーションが重要である。
3.3 工場移転に伴う調査サイト・調査費用の立替と補償費用の受取、土地所有権の返却
1995年操業開始の化学工場で面積約4万m2。現在は解体中である。当該地を含めた周辺を宅地化するために地方政府から立ち退きを求められた。工場は別の開発区へ移転済みである。公的研究機関に依頼して初歩調査を行ったところ土壌汚染が見つかった。今後、詳細調査結果に基づき“審査会”にて浄化が必要と判断された場合には今年中に浄化まで完了予定である。調査浄化費用は当該工場が立替負担する形になっている。
当該工場が事業主となりすすめる案件で、日系企業のモデルケースになると思われ、経過を注目している案件である。当該案件の特徴を以下に示す。
これから移転しようとしている工場地の土壌汚染調査対策。
民間工場が事業主となり、業者選定、調査浄化、補償精算及び土地使用権の返却まで当該工場が実施。
移転(強制)が調査実施の契機であり、移転補償費用の中で地方政府に土壌汚染対策費用の請求ができる。工場が調査浄化費用を立替えて支払い、総て終わった後に、補償として政府(地方政府国土局傘下の土地備蓄センターから)から、費用を受取ることができる。費用の概算は公的研究機関が実施した初歩調査で示されている。ただし、受け取れる金額は、政府が認める金額でなければならない。
土地使用権の返却手続きがある。
宅地開発は次に土地使用権を取得する不動産開発業会社が行う。土地使用権は、工場→地方政府(県以上の土地管理部門)→不動産開発会社→マンション購入者へと移動する。
調査の仕様は、公的研究機関実施の初歩調査結果を受け、環境サイト調査技術ガイドラインHJ25.1-2014に準拠しながら、弊社と当該工場との協議で決まった。調査の仕様は以下のとおりである。現地では、当該現場では発注者の依頼を受けた品質管理機関が試料採取地点確認のため現地作業に立ち会った。これも中国特有の品質管理システムである。
調査仕様:調査対象物質:初歩調査結果から選択したフェノール等。
調査地点配置:土壌40m×40mメッシュに1地点以上、浅層採取地点27地点、深層採取地点10地点。
土壌採取深度:浅層0-20cm、深層:5m(表層+1m毎)。地下水4地点、地表水2地点
2014年から2015年に完了した調査浄化19件を対象として、対象物質や実施の契機等の分類を行った。実施の契機として最も多いのが、土地の再開発に伴う行政指導に基づいた実施でであった(表—1 参照)。また、 手順及び仕様決定の仕組みについて表—2にまとめている。
中国の土壌汚染対策法である「土壌汚染防治法」は現在制定準備中ではあるが、再開発時や工場移転時、汚染の顕在化の時には通達やガイドラインに基づいた行政指導は開始されている。
土壌汚染対策を円滑に進めるには、地方政府環境部門及び専門家とのコミュニケーションが土壌汚染対策専門業者に求められる。
今後中国に所在する日系企業においても、土地使用権者及び汚染原因者として土壌汚染問題に対する対応が必要になってくるであろう。
土壌汚染対策と土地使用権の返却手続きとは連動して行う必要がある。土地使用権の返却手続きは地域によって違いが在るため、当該地域の弁護士(土地使用権返却・移転手続きに詳しい中方 & 日本人弁護士のチーム)及び土壌汚染専門業者に手続きを依頼することが有効と思われる(中国弁護士談)。
弁護士及び土壌汚染対策の専門業者を選定して、移転手続きや土壌汚染対策の検討(要不要、仕様、時間、費用、手順と交渉先)を事前に実施しておくことが望ましい。ガイドライン(2014年)の基づき、日系企業が将来必要となると予想される土壌汚染調査対策の仕様を事前に検討することは可能である。
宋德君 他(2014):報文・複合汚染地下水の酸化修復設計とモニタリング,第20回地下水・土壌汚染とその防止対策に関する研究集会発表原稿